トリオトランの三人登場。
とてもいい笑顔の挨拶の後始まった演奏は、幾分私たちと一緒にライブをやったときより、気合が入っているようにも見えた。
そりゃそうだ。
いわば今夜は次回の来日に向けてのプロモーションの場なのだ。大使も、お客様も、ジャズ関係者もいる前だから、当然と言えば、当然かもしれない。
たったの一週間しか経っていないのに、私たちとライブをやった時より、こころなしか痩せて見えた。東京疲れ、したのかな、などと思った。
東京は、ハードな街だ。
私は上京して5キロ落ち、そのまま戻らなかった。環境の変化が、きっつい街なんだ。(しかしそれは私だけだったみたいで、村上は体重を着実に増やしていった。どういうこっちゃ。)
三人は、会場のお客さんに向かって、よく話した。本当にいい笑顔だった。明日、帰れる、っていうほっとした気持ちもあるだろう。
日本に滞在していいことばかりじゃなかっただろうけど、ライブをやる、という目的を果たした満足感もあるだろう。
とにかく、本当にいい笑顔だった。男前が、一段と美しく見えて、まったくいい男だなあ、と感心してしまう。
大使館は、美しい。
だんだん落ち着いてきて、あたりの様子をうかがうと、随所に大きな絵画が飾られていて、暖色系の天井からのライトが、床や柱の木肌を映やし、まったく、別世界のような美しさだ。
しかし、約40分の演奏のあいだ、片手はオレンジジュースのグラスをこぼさないよう隠し持ったまま!
おかげで、大使館の美しいインテリアに溶け込んでいるかのようなトリオトランの写真を撮ることが出来なかった。(それに誰も写真など撮る気配も無くて、撮っていいのかどうかもちょっと不安だった。)そればかりか、拍手もままならない状況なのだ。ほどよくつがれたオレンジジュースは私の手ですっかり暖まってしまっていた。
演奏が終わって、皆立ち上がったとき、柱の影で一人、暖かいオレンジジュースを飲み干した。
結構イケル。これは喉が渇いとるせいか?
その間に伊達さんたちは、給仕の人たちと椅子を片付け、そのままビュッフェ・パーティになった。
もちろんありましたよ、ノルウェーサーモン!木製の魚の形をした皿に、きれいにスライスして盛り付けられていた。
握り寿司や、ジャガイモ料理や、トマトとモツァレラチーズのサラダやら、まあいろんな料理が、盛り付けられていて、それがまた、花やキャンドルに飾られたテーブルセッティングの美しーこと!
飲み物も各種用意されていて、私はデザートのケーキを横目で見ながら、赤ワインをいただいた。
川崎君も並木君も、少しずつ料理を取り皿に取っていた。
かねがね、こういうパーティで、飲み物と小皿、どうして持てばいいのだろう?と思っていたのだが、小皿に取り付けるプラスティックの器具があって、ああ、こんなのをお皿に取り付ければ、グラスを引っ掛けられるのね、と感心した。初めて見るのに、村上は川崎君や並木君に取り付けるのを教えているのを見て、吹き出しそうになった。
人前で村上の豪快な食い気を披露することになるのもなあ・・と懸念した私は、村上には、食事を家で済ませてから待ち合わせ場所に行くよう段取りしておいたのだが、正解だった。
私が少しだけ取り皿に載せて持ってきた料理を、村上は何種類か軽く味見する程度に食べた。
よし。見様によっては、品良く、見えたかな・・?
外人さんのボーイを調達してケータリング頼んだのかな、と私は思ったのだが、ドアの向こうには廊下に続いて大きな厨房があるらしく、かちゃかちゃと食器を洗う音などが響いていた。あとで知人に聞くところによると、大使館ともなれば、こういう時のためにおかかえの料理人たちが同行して在日しているのだそうだ。
ほえ~。
広間から庭に出られるようになっていて、花が咲いて美しい。庭に出てみた。庭のベンチに灰皿が用意されており、みんなは庭や、フロア、随所で歓談し、私たちはWelcome-backのマスターや、ディスクユニオンのSun Shipの担当N氏、H.S.Artのマスターとも話した。
庭から上を見上げると、トリオトランがベランダから手を振っていた。控えでくつろいでいたのだろう。しばらくすると、トリオトランがフロアに出てきて歓談に加わった。横浜エアジンのマスターもいらっしゃっていた。
はて、一度脇に移動したピアノをフロアの中央に出してきて、何が始まるのかとおもいきや、村上がピアノに座るではないか!
「なになに!? どーしたの??」
庭に出ていた私たちは、慌てて中に入った。